鈴木ヒラク
遠くの面白い場所を探して行くことよりも、すぐ目の前の場所を面白がれる瞬間が制作の引き金になることが多い。例えばアスファルトの上に落ちている曲がった枝2本の配置が、新しい象形文字とか何かのシグナルのように見えてしまう一瞬。それは、いまここという現実の中に、別の時間と場所に通じる鍵穴が現れるような、初めてなのにどこか懐かしい、静かな出会いの感覚をもたらす。
変形し続けるパズルのピースがピタリとはまるように、体内の記憶と外の世界の記憶とが未開発エリアで符号するその瞬間を、描くこと、また描かれた痕跡を見ることによって捉えたい。
だから私は描くという行為の中に、個人的な想像上の事象を「表す」方法だけではなくて、いまここに秘められた何かが想像を超えて「現れる」という発掘に近いやり方があることを希望だと思っているし、できる限り目の前にある物質や場所と関わりながらそれをやっているのだ。 そして作品自体がまた、私を含めた見る人の目にとっての鍵穴となり、そこから新しい外を覗くことができればいいと思っている。
2008年1月
個展「NEW CAVE」カタログに寄稿
< return to text list