第9回東山魁夷記念 日経日本画大賞展 推薦文

山梨絵美子(千葉市美術館館長)

日本の絵画にとって、線との濃淡という造形要素による表現は脈々と引き継がれてきたものであり、近代以降の「日本画」というジャンルにおいても多くの画家たちによって真摯な取り組みが続けられてきた。
鈴木ヒラクは当初、音を媒体として創作をしていたが、2000年頃から土や枯葉などによる平面作品を制作し、自身の「ヴォキャブラリー」の探求と位置づけて、黒インクのマーカーで紙にドローイングを始めた。その中で、ドローイングは自身にとって「世界を把握するための方法」であり、自身の働きかけに応じて新たにあらわれてくる世界を自身の手で把握し、コレスポンド(一致、合致)させる行為であるととらえて制作するようになる。描く・書くことで世界との交信回路をつくることがドローイングであるとも述べ、また、自らの線は管状の「チューブ」であって、境界ではなく、何かと何かを接続するものであるとしている。
2000年代は主に紙に墨、インクなどを用いていたが、2009年頃からシルバーインクを用い、黒い下地に多様な線を複雑に重層させて、作家の身体の動きの痕跡を作品化している。
それは、水中・空中の微細な分子や光・電子の動きなどを想起させもし、自然界と作者との繊細な交の記録のようでもある。線とモノクロームという日本絵画の造形要素に新たな視覚の可能性を拓いた作品として、推薦する。

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