作家解説

住友文彦(アーツ前橋館長)

 地下中央の展示室は上の荒井の部屋と対になるようにして、言葉の始源を伝える洞窟のような展示になった。鈴木ヒラクは一番大きな壁面に幅11メートルの新作を展示し、《GENGA》の映像と墨汁とシルバーインクで描かれた《Constellation》のシリーズを壁面に、床には反射板によって都市の平面プランのような形を持つ作品を配置した。
 記号とも文字とも言えない線を描き続けている鈴木は文字の発生に強い関心を向けてきた。実際に彼が創り出した線を眼で追うことは、古代の人類が持っていた想像力をなぞる体験のようでもある。そのいっぽうで、線の流れ、留め、跳ね、重なりのリズミカルな動きが感じさせる身体性は、道具を手に文字や記号を記してきた人類の歴史を今のストリート的な文化の混淆性と接続させ、同時代の鑑賞者が自らの感覚を同期させていく洗練性も持っている。

2018年1月15日
「キュレーターズノート 足利市立美術館「涯テノ詩聲 詩人 吉増剛造展」、アーツ前橋+前橋文学館「ヒツクリコ ガツクリコ 言葉の生まれる場所」」-artscope

 

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