Signals

鈴木ヒラク

1年半ほど前にパンデミックが始まって、僕たちはこのSignalsというプロジェクトを始めた。それから物事は変わったとも言えるし、変わっていないとも言える。人間社会の変化に比べて、人間以外の世界はそれほど変わっていないようだ。僕自身は、小さな娘と家で過ごす時間が増え、庭で植物を育てるようになった。そして移動が減った分、身の回りにある「揺らぎ」に対する知覚の解像度が少しだけ上がったような気がしている。何かのヒントを求めてどこかに行くのではなく、既に自分の身の回りにあったヒントが、以前よりも少しだけ見えやすくなったということだろう。

人間の内側にも様々な揺らぎがある。感情や記憶も常に揺らいでいる。体のどこかの筋肉に力を入れることで、別の箇所の力が抜けるし、逆にどこかの力を抜けば、別の箇所が緊張したりもする。身体を構成する60兆個の細胞の中エネルギーは行ったり来たりしている。人間は、自分の内側の揺らぎと外の世界の揺らぎをチューニングしようと望むことがある。そしてそれらがうまく一致した時に、安心したり、何か世界の謎を解読できたように感じたりもする。

床で揺れ動く木漏れ日を見ていた時、光の形が新しいシグナルのように見えて、何かと何かがシグナルを送り合って交信しているかのようだった。それはまるで、光の文字による手紙のやりとりのようにも思えた。世界は、決して既に書き終えられた一枚のテキストではない。送られた手紙を受け取り、また書いて送り返す、その繰り返しの中で世界は生成し、更新され続けるのだろう。量子力学では、宇宙は揺らぎから始まったとされる。極小の粒子である光子というものは、物質であると同時に、波でもある。

世界とは揺らぎそのものであり、僕たちはその中で終わりのない文通をしているのかもしれない。遠い彼方で発されたシグナルを受け取って、また送り返す。

2021年10月
Drawing Tube “Signals”に寄稿

 

 

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