作家解説

北出智恵子(金沢21世紀美術館キュレーター)

 鈴木ヒラクの「描く」行為は、ものごとを「反転」させる。土を敷き、枯葉を埋め込み、葉脈の部分を手で掻き起こす《bacteria sign(circle)》(p84-85)では、葉脈の形状は影となり、葉脈の主脈のみが露わにされる。水分と養分の移動を担うこの脈が成す円という線と形はエネルギーの流動、循環を想起させる。表面に留められた葉の形、土の色はパネルによって様々で、制作ごとにその時手元にある葉と自身の足下にある土で描いたことを示す。こうして移動、反復の行為がかたちとなり増殖していく。鈴木は、自身の表現を「ダブミュージック的音楽」と喩える。反転、反復により、素材の物質性は切り離され、痕跡あるいは新たなイメージが立ち現れ、共振する。同時に、遠い過去、記憶、未来、未知の拡がりは、土、枯れ葉といった最も身近な「今・ここ」に潜在するということを、鈴木は自らの身体を「回路」とした発掘的行為により、観る者に気づかせるとともにその感覚に響かせる。

2013年2月
金沢21世紀美術館「ソンエリュミエール – 物質・移動・時間、そして叡智」カタログに掲載

 

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